デジタルも捨てたもんじゃない 歌詞と向き合う新たな音楽の時代が来ている
佐野元春 今、何処ツアー2023 ⑥
アルバム「今、何処」ジャケットのアートワークを投影していたスクリーンはオープニングと同時に巻き上げられ、オリジナル映像が後方スクリーンに投影されている。
こうしたデジタルな装飾は舞台の大道具と違って手離れがいい。
かつて、相当な制作費がかかったであろうオブジェを「このツアー終わったら捨てるのは勿体ない」と想いながら眺めていた。
そのオブジェはアルバムの世界観を表していて、非日常な異空間に身を置いていることを実感させてくれた。
でも今こうしたデジタルで次々に移り変わる映像を見ていて理屈抜きに愉しい。
□クロエ|今、何処
スクリーンにはオープンカーをドライブする元春。助手席にゾーイ君が大人しく座っている。
♪時はため息の中に止まる♪
この歌詞に僕の思考が立ち止まる。
スクリーンに歌詞を映す趣向は2015年に行ったサザンオールスターズ「おいしい葡萄の旅」で見ることができた。
連れてってくれた友達は「サザンは最近いつもこうだよ」と教えてくれた。
大きな声では言えないけれど、その時僕はこう返した。
「これはいいね、一緒に歌えるし。ただ佐野さんには無理だな。歌詞を間違えるから」
スクリーンに流れる歌詞を見て、ゼッタイに歌詞を間違えないぞ!と気合いのギアが一段上がったんだなと想像していた。
□植民地の夜|今、何処
♪盲目の声に的を絞った邪悪なプロパガンダ♪
音として聴いていると「プロパガンダ」というワードだけが耳にこびりつくが、歌詞を目で見ていると、違った感情がわく。
元春は「現代の詩人」と評されてきたが、実際にそれがどういうことか、あまり考えたことは無かった。
後方スクリーンに歌詞が投影されていて、歌詞が目に見える。
元春が書き留めた現代を、もっと聞きこんで、考えて、現代の詩人としての意味を考えてみたいと想う。
子どもの頃、ビートルズや井上陽水のレコードを聴く時、ジャケットから歌詞カードを取り出して、一緒に歌った。
大人になって(歳をとって)音楽のベテランになると、滅多にしなくなった。
歌詞が歌詞カードではなくジャケットのブックレットに印字されていることもあり、角を折ったり、手で触って汚したくないと想ったからだ。
それが今、デジタル音楽の時代
こうしてパソコンに向かいながら、Apple MusicをかけているiPADには「今、何処」の歌詞が流れている。
もう「瞬きを繰り返している」を「股抜きを繰り返している」と歌ったりはしない。
ギスギスしたデジタルの音に疲れた一部の人たちが、潤いの音を求めてビニルレコードに回帰している。「音楽カセット」コレクターの僕はその気持ちがよくわかる。
だが、デジタルも捨てたもんじゃないと、このツアー経験を通して想うようになった。
□斜陽|今、何処
♪君の魂 決して無駄にしないでくれ♪
Apple Musicで「今、何処ツアー」に向けた予習を始めた時、最初に好きになったのがこの曲だった。
この歌詞を聴いていて、この歌詞を、いやこれだけでなく「今、何処」アルバムの歌詞を朗読したい。そのためには詩集のように、いつでもすぐに開けるカタチのものが欲しいなと考えた。
今も時々「ハートランドからの手紙」* を取り出して、ぱっと開いたページを朗読している。あんなことができるように。
*「ハートランドからの手紙」佐野元春 スイッチ書籍出版部 1990年11月30日
【このお話の目次】Apple Musicでしっかり予習して臨む 佐野元春 今、何処 TOUR 2023
→ど素人!佐野元春講座
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