幸せな「うなぎの日」
僕はある時、外回りの営業だった。
得意先を自ら開拓することもあるが、前任者から引き継ぐこともある。
僕が担当していた商品は会社のなかでも、まだ販売ルートが乏しい新規事業だったので、新規開拓と通常巡回が半々。
その代理店は前任者からの引き継ぎだったが、同年代の社長と信頼関係を築いた僕は特に力を入れていた。社員は皆、僕よりも若くちょっとついていけないなと想うほど活気があった。
7月のある日、お昼過ぎにその代理店を訪れると社内がそわそわしているのを感じた。なんだか、皆楽しそうだ。
「なにかあるんですか?」
僕が水を向けると社長が言った。
「今日はうなぎの日なんです」
三度の飯よりうなぎが好きな・・僕は色めき立った。
なんです・・それは?
「社員のTの実家が**うなぎの養殖をやってるんです」
社長が出した**(地名)は、うなぎの名産地だった。現代においてはふるさと納税の人気うなぎとなっている。
当時から生産量は全国屈指だったが、特筆すべきはその肉質。
**のうなぎを出すうなぎ店で食べた時、僕は目を丸くして想った
「なにこの歯応え、ゴムみたい」
例えに品がないので口には出さなかったが、一緒に食べている誰もが目を丸くしていた。その食感に驚いているのだ。その店には何度も通った。誰かに美味しいうなぎ家を聞かれたら、そこを薦めた。今でももう1度その店で食べたいと想う。ただ、インターネットで店名を検索しても情報が出てこない。とうに閉店してしまったのだろうか。
社長がつづける
「年に1度、Tの家がうなぎを提供してくれるんです。それでウチに集まって御飯を炊いて、うなぎを大皿に積みあげて・・」
皿に積みあげられた肉厚の**うなぎ
この話しはもう30年前の話なのだが、今でも想い出しただけで唾液が出てきて、御飯が三杯いけそうになる^^)
今日はもう仕事を終わりにして、これから「うなぎの日」に突入するという社長に対して、僕は三度の飯よりうなぎが好きなこと、特に**のうなぎは素晴らしいと力説した。
「じゃ、motoさんもくる?」
社長はそう言ってくれなかった。
今でも、うなぎを食べる度にあの「うなぎの日」を想い出す。
うなぎは食卓について「今日はうなぎよ」と言われるものではない
(考えには個人差があります)
前もって、ふるさと納税で取り寄せたうなぎが冷凍庫にあって、この日はうなぎだとわかっている。その日、うなぎの名店に食べに行こうと誘われる。そういう楽しみな時間も含めて「うなぎの日」
今も、皿に盛られた肉厚の**うなぎをワイワイ言いながら食べる若者たちの姿が目に浮かんでいる。
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