2023年4月26日 (水)

ispace HAKUTO-R の月面着陸は通信が途絶えて確認できず

2023年4月26日
日本の民間企業「ispace」の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」が、月面着陸に臨んだ。


■HAKUTO-R ミッション1 時系列の記録

2010年9月10日
袴田武史氏(CEO)が ispace を設立

2018年9月26日
スペースX(米国)と2回の打ち上げ契約締結

2022年12月11日
スペースXのロケットで「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)打上げに成功

2023年3月21日
ランダーの月周回軌道への投入に成功

4月14日
Success8完了
軌道マヌーバ(推進装置で軌道を変えること)に成功 着陸段階に入った

4月21日 23:15
NHKが特集番組を放送
「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」月の開発ブームがいつの間にか来てたってよ!
https://www.nhk.jp/p/ts/1M3MYJGG6G/episode/te/16RJQZ7J37/

4月24日
NHKが「ニュース7」などでispaceの取組、月探査ロボット(JAXA、タカラトミーなどが共同開発したSORA-Q)の遠隔操作訓練を紹介

着陸場所は3カ所を想定
場所に拠り、4月26日、5月1日、5月3日のいずれかを着陸予定日としていた

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4月26日 0:30
1.3万人が待機するなか、当初予定より10分遅れで、You Tubeの「HAKUTO-Rチャンネル」で「月面着陸発表会」公式LIVE配信が始まる。
会場:日本科学未来館(東京)

月に取材カメラはないので、ランダーが着陸する瞬間の映像はない。
ランダーのカメラがリアルタイムで着陸時の映像を送ることはない。
そのため、番組名は「発表会」のLIVE配信となっている。

「月面着陸発表会」公式LIVE配信

番組の冒頭5分間、HAKUTO-Rの紹介動画が流れる。
スピーカーによる挨拶映像はすべて英語だ。


4月26日 0:42
イベント会場からの中継に切り替わる。
進行は英語だが、日本語同時通訳がつく。
JAXAチャンネルのH3ロケット発射のような、淡々と現状を

「0:40よりランダーが降下を開始して、着陸態勢に入る」
ことが事前周知されていたが、なかなか本題に入らない。ドキドキする

0:46
「既に軌道を離れるマヌーバを完了したと思われる」とMCが述べる
そこは大事なところだが「思われる」とは?頭上に「?」マークが浮かぶ

0:47
袴田武史CEOが登壇して英語でスピーチ

0:49
氏家CTOがMission1の流れを説明した収録映像が流れる

0:55
日達マネージャーが登壇
「現在、ランダーは月の裏側にあり通信ができない。通信の確立を待っている。着陸は太陽から見える側で行われる」ことを説明

この説明で「0:40の軌道離脱マヌーバ」を断定的に紹介できなかった謎が解ける。

0:58
月面着陸後、10日間の運用日程について動画で紹介
今回のMission1「月面着陸」が、今後のMissionにつづく長い道のりの途中にあることが強調されている。

1:00
再び、日達マネージャー。壇上で、現状のランダーの状態について動画を見せながら着陸のPhase1~6を解説
Phase3では、噴射(ブレーキ)により6000km/hから380km/hに減速するという。そんな難しいことをするのか・・・
この時点ではPhase2

1:07
JAXA宇宙科学研究所 津田教授が登壇
1:09
エアバスのデラウェントマ氏が登壇
1:14
ispaceの斉木氏が登壇してMission1のペイロードについて話す
※ペイロード:ロケット、ランダーなどの輸送機が運ぶ機器
1:17
ispaceスタッフがペイロードについて説明した動画が流れる
1:19
宇宙飛行士 山崎直子さんがオンラインで登場
「月で学校をオープンしたい」という夢を語る

1:21
日達マネージャーが現状を話す
「恐らくPhase2。高度25km/h」

1:23
(恐らく)着陸場所選定に関与したスタッフが、着陸場所のAtlas Craterについて。ペイロードのクライアントも登場(収録動画)

1:27
ispace 野﨑CFO登壇
2024年 Mission2、2025年 Mission3について話す
(Mission1は今回の月面着陸)

1:29
ispace ムーンスコット氏が登壇
今後のMissionについて話す

1:31
MC「ランダーが月の裏側から姿を現し始めている時間」
画面にはシミュレーションモードの動画が流れている
日達「既に逆噴射が行われている。速度をどんどん下げていく」

1:37
クルーが詰めているコントロールセンターにカメラが切り替わる
いよいよ着陸予定時刻まで3分前

画面はリアルタイム映像ではないが、時速、高度表示が下がってくる。時速・高度ともに「0」となれば「月面着陸」だ。

1:41
時速・高度ともに「0」=Success9完了
そして、ここから月面着陸後の安定状態の確立=Success10

見守るクルーたち、歓声は起きない
重苦しい空気が横たわっている
MC「通信の再確立をしている」

1:47
HAKUTO-R紹介動画に切り替わる
1:57
MC「クルーが確認しています。もう少しお待ちください」

2:06
袴田武史CEOが説明
着陸の確認ができていません。エンジニアが調査を続けています。
着陸のところまで通信を確立できていたが、現状、通信を失ってしまいました。
推定では、月面着陸が完了できていない可能性もあります。
状況がわかり次第、ご報告します。
Mission1は大きな成果を残した。ここで学んだことを、将来のMissionに反映したい。
皆様に感謝申しあげたい。
我々は歩み続けます。ゼッタイに諦めません

2:12
配信終了


この時点では、ミッション1の Mission Complete!とは成っていない。
今後の動向を見守りたい。これを縁にこれからのMissionにも関心を持ち続けたい。

ispaceの皆さん、このプロジェクトに関わったすべての方々、ステークホルダーの皆さん、ひとまずはおつかれさまでした!

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2023年4月25日 (火)

日本が「月面着陸」を成功させた4番めの国になる日

日本が月面着陸を成功させた4番めの国になるか?
明日、2023年4月26日1:40頃、その答えが出ているかも知れない。


そのプロジェクト「HAKUTO-R」に取り組んでいるのは、月面探査・輸送を手がける日本のスタートアップ企業「ispace」本社:東京都中央区日本橋浜町3-42-3
月面着陸が成功した場合、国としては4番めだが「民間企業では世界初」となる。

ispaceは、今回の「ミッション1」で月面着陸のあと、月での水資源探査(マッピング)に取り組む。
「水」は人と機械のエネルギー源であり(地球から運ぶのではなく)月で現地調達できるかが、月面開発事業の鍵となる。


■ispace 時系列の記録

2010年9月10日
設立
2022年12月11日
民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)打上げ成功
2023年4月12日
東京証券取引所グロース市場上場 <9348> 公開価格254円 翌日初値1000円を付けた
2023年4月26日
民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)が月面着陸予定

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これまでに「月面着陸」を成功させているのは、旧ソ連、米国、中国の3カ国。
ChatGPTに質問すると「ソビエトと米国」と答えたり「米国と中国」と答えたりする。
「中国(ソビエト)も成功しているよ」と指摘すると「私の回答が誤っていました」といって、詳細な記録を返してくる。不思議だ。

「有人」での成功は米国のみ。
「アポロ計画」で有人月面着陸を6回成功させた。
ソビエトと中国は無人機によるもの。


■月面着陸の記録
1959年9月
ソビエト連邦「ルナ2号」(無人機)が世界で初めて月面に到達(衝突)
1966年2月
ソビエト連邦「ルナ9号」が世界で初めて無人月面着陸
1969年7月20日
米国「アポロ11号」が世界初の有人月面着陸
2013年
中国「嫦娥3号」が無人月面着陸

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民間資本で「月面着陸」に成功した事例はまだない。

■月面着陸に挑む民間企業
・スペースX(米国)
NASAの指名を獲得。2024年以降に有人月面着陸を目指す
2022年12月にispaceの探査船「HAKUTO-R」を打ち上げた

・SpaceIL(イスラエル)
2019年4月、月面軟着陸に失敗。再挑戦はしないと発表している

・ispace(日本)
2023年4月26日「HAKUTO-R」で月面着陸に臨む

ispace「HAKUTO-R」のランダー(月着陸船)は既に月の周回軌道に入り、着陸準備態勢にある。
着陸場所は3カ所を想定。場所に拠り着陸予定日は4月26日、5月1日、5月3日のいずれかとなる

最も早い場合、日本時間で 2023年4月26日(水)1:40頃に「月面着陸」に臨む。

1969年に米国のアポロ11号が、有人で「月面着陸」した時は、NHKが長時間にわたり生放送した。
今回の「月面着陸」はYou Tubeの「⇒HAKUTO-Rチャンネル」で生配信予定。24日現在、地上波放送予定はリリースされていない。

月から電波が届くこと自体、素人には驚きだが、今から54年前に月から生中継していたというのにも驚く。

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2023年3月 9日 (木)

失意から立ち上がった「ロケット団」の健闘を祈る

■JAXA会見 つづき

岡田匡史プロジェクトマネージャー

【Q】失敗の受け止めを
【A】多くの方に見守っていただいた中で、申し訳ないと思います

【Q】ロケットコンテストに集まった子どもたちについて
【A】そこはとても弱いのですが、今日はそこを考える余裕もなかった。飛び立つ姿を見てもらいたいと思っている。一日も早く return to flight を目指したい

【Q】現時点で語れる可能性を
【A】ロケットからきたデータをくまなく見ている最中。最初に網を掛けようとしているのはロケット本体の電子搭載機器からそれをエンジンが受ける部分をつぶさに見る必要がある

【Q】LE-9について
【A】2年間苦労してきたので、燃焼が終わって停止した時は「よくやったな」という気持ちにはなった

【Q】自動車部品との汎用性を持たせたことが影響したのでは?
【A】まず申しあげたいのは自動車部品は信頼性が高い。耐放射線性をしっかり確認している

【Q】機体を引き上げられないことの影響は?
【A】H2A8号機で海底3000mから引き上げてわかったことはあった。今回(の件では影響)は直接的には結びつかない

【Q】次はどれくらいに打ち上げたいというのがあれば
【A】できるだけ宇宙(基本)計画に影響を及ぼさないよう最大限の努力をして、これならいけるというものをお示しして(実施の)判断をいただくものと想う

【Q】リハーサルで着火信号が出ないということがあったか
【A】H3についてはない。あったとしても確実に解消している

【Q】H3ロケット2号機を島外に持ち出して点検することは?
【A】まるごと一式持ち出すのは考えづらい

【Q】今回の失敗という壁をどのようにとらえているか?
【A】乗り越えられない壁ではない。みんなで力を振り絞って乗り越えたい

【Q】米国のスペースXは堂々と失敗を公開している。日本の宇宙開発は失敗を責めるようなところが課題だと思う
【A】結果として失敗で終わるのはいけない。H3ロケットの開発はつづく。乗り越えて最後は成功して、宇宙の軌道、運用の軌道に乗せるところまでが我々のミッションだと思っている

【Q】この失敗から得た糧は?
【A】このロケットはフルモデルチェンジしている。発射装置、固体ロケットブースターの作り、結合のしかた、分離が無事作動したこと、フェアリングの分離、途中まではよくできていたと想う

【Q】三菱重工のエンジニアにかけたい言葉は?
【A】JAXAと一緒になって、何が起きたのだと(今も)やっていただいている。私がかけるような言葉なんてない。ほっておいても乗り越えようとする。もしかけるなら「一緒に大きな壁を乗り越えていきましょう」

【Q】どのようにしてチームを盛り上げていこうとしているか?
【A】ロケット開発には、日本の未来がかかっている。私はRCCという総合司令塔にいたので、見られるデータは少なく呆然とした。発射棟はいろいろなデータが見られて、すぐにホワイトボードで検討していた

【Q】何処に落ちたか地図で示してくれないか?
【A】頭に入っていないので、ここでは控えたい

この質問をした産経新聞の記者は
「答えられない質問をしてしまったようです。失礼しました。ありがとうございました」
と、2月17日の会見で共同通信の記者がしたような態度。

【Q】2号機の準備は何%くらいまで進んでいるのか?
【A】残るはLE-9エンジンくらいのみのところまで、できている


17:24
JAXAの会見は開始から3時間24分。
岡田匡史PMの質疑だけでも1時間59分を費やした。

長すぎると思う。
「これは再度の確認なのですが」
「先ほどの**社の質問とかぶるのですが」
「聞き逃したかもしれませんが」
「詳しくないのですが」

そんな自己弁護で始まる質問に、きらりと光る着眼点は見いだせなかった。


失敗してから、会見まで3時間しか経っていない。
「現時点での見解」「予測」
を尋ねたところで、満足いく回答は得られない。
何が起こったか分かっているならば、そもそも、対策済みのはず。
ロケット・プロジェクトは、そんな適当なものではない。
想定外のことが起きているから失敗しているのだ。


失敗直後のNHKニュースを見た時「ロケット開発に暗雲が垂れ込めた」と悲観的な気持ちになったが、岡田匡史PMの言葉を聞いて、次への希望が沸いた。

「朝焼けの前は暗い」 
失意から立ち上がった、ロケット団の皆さんの健闘を祈る。

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2023年3月 8日 (水)

「朝焼けの前は暗い」 H3ロケットミッション達成成らず

なんなんだろうか、この喪失感は。
H3ロケットは大空に打ち上がったが、喜びもつかの間、ミッション不達成となった。

■2023年2月17日 中止からの記録

2023年2月17日
10:37 発射時刻
メインエンジンは着火したが、SRB3(Solid Rocket Booster3)が着火せず。打上げは中止された。
14:00 JAXA「H3ロケット試験機1号機に関する記者会見」JAXAのYou Tubeで配信
岡田H3チームプロジェクトマネージャーが「LE-9エンジンが立ち上がったあと、異常が検知されて、SRB3へ点火信号が行かなかった」ことを説明した

2023年3月3日
JAXAが会見 2月17日の中止に至った原因と、対策した修整内容を説明。打上げ日を3月6日と発表

2023年3月6日
天候不良が想定されるため、翌日に延期


■3月7日 打上げ当日の記録

9:40 H3ロケット試験機1号機/先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)打上げライブ中継
10:37 H3ロケット打上げ
10:40 2分後、SRB2切り離し

呆気ない・・
と想うほど、H3ロケットはあっさり上昇を開始した。
2月17日には点火に至らなかった「SRB2」が切り離されて、白い煙を吐いて落下していく
合格発表の掲示板に自分の受験番号を発見した受験生のように、心が充足感に包まれた

だが4分後、第2段ロケットが点火されておらず速度が落ち高度が下がっていく・・
JAXAが状況を確認中のアナウンス。画面が種子島の遠景に代わる

10:51 「第二段エンジンの着火が確認されておりません」再び流れる
10:53 企画管理主任「ロケットはミッションを達成する見込みがないという判断から、指令破壊信号を送信しました」とアナウンス

10:54 状況については分かり次第、打上げ関係者に連絡します。これにて、実況放送を終了します
10:58 LIVE中継終了
11:00 NHKニュース 5分間すべての尺を使って「打上げ失敗です」と報じた

13:00 NHKニュースが参議院での文科大臣の発言を伝えた
永岡桂子文科大臣
「宇宙開発の進歩を止めないよう、速やかに原因究明にとりくむ」

14:10 JAXAが会見

■JAXA会見
特筆すべき部分のみ記載

冒頭発言

・JAXA山川理事長
ご期待に応えられず、お詫び申しあげます
人的被害、第三者損害は確認されておりません
迅速に原因究明を行います

・文部科学省 原 大臣官房審議官
永岡文科大臣より対策本部設置の指示があり、12:20に第1回会合が行われた


質疑応答

【Q】ALOS-3,4の今後について
【A】ALOS-3(だいち3号)については関係者で対応検討する。
ALOSA-4については、この失敗を踏まえて検討していく(原)

【Q】H2Aの打上げ継続に影響は?
【A】エンジンはH2Aと全く同様ではない。また現時点では(LE-5B3に)着火しなかったことしかわかっていない。現時点で明確なことは言えない(布野)

【Q】機体の海からの引き上げは?
【A】フィリピン沖ということもあり、現時点で回収は考えていない(布野)

【Q】試験2号機の打上げまでのスパンは?
【A】年間6基という要求で取り組んでいるが、まずは1号機の原因究明が先決(布野)

【Q】昨年(10月12日)のイプシロン(6号機)の指令破壊を踏まえて準備したことは?
【A】イプシロンは2→3段分離時の姿勢。今回は2段エンジン(LE-5B3)の不着火。共通(の失敗)ではないと想う(布野)

【Q】国際的な信頼回復のポイント
【A】どれだけ早く、透明性をもって対応できるかに尽きる(山川)

【Q】岡田PMはなんと言っているか?
【A】あとで本人に聞いてほしい。「原因を究明する」と(言っていた)力強い言葉だったのでやってくれると信じている

【Q】コストを下げたことが影響しているのでは?
【A】コストを下げることで耐久性は下がる。両立のために2年間試行錯誤した。重要なのはコストだけでなく信頼性。それをないがしろにしたことは一度もない(山川)

【Q】LE-9が飛ぶところまではうまくいった
【A】LE-9は所定の性能を出してくれた。そこまでのフライトは完璧だった(布野)

15:25
会見開始から1時間15分で、登壇した3人の会見が終わった。
つづいて、別室に控えていた岡田匡史プロジェクトマネージャーが登場する。

つづく

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2023年3月 4日 (土)

H3ロケット打上げ! 「ロケット団」の成功を祈る

2023年2月17日に中止となり、延期されていたH3ロケットの打上げ予定日が、3月6日(月)に決まった。

3月10日が延期予備日の期限。
自治体、漁業従事者など、多くのステークホルダーと調整して決められた日程は動かせない。
天候の影響により数日の延期となることを織り込むと、ぎりぎりのタイミング。
ただ、わずか2週間の間に、原因を突き止めて、リトライにこぎ着けたことには、少し驚いた。

H3ロケットが晴れて、ビジネス運用の軌道に乗った後、この「2週間の奇跡」に、ドキュメンタリー映像や書籍で触れたいと思う。


正午のNHKニュースで報じられた3時間後、JAXAの会見が行われた。
この模様は、2月17日の「中止」後の会見と同様、JAXAチャンネル(You Tube)で生配信された。
以下は、その内容から、素人ロケット団の僕が「これは知りたい」「大切なことだ」「なんじゃそりゃ」と想ったものをまとめた記録である。


登壇者は前回同様、岡田匡史プロジェクトマネージャー(PM)

冒頭の説明
再打上げ日程は、3月6日(月)10:37:55
天候の具合をみて随時判断する。

■打上げ中止の原因
(概要としては)
SRBの点火許可は出ている。ソフトウェアにより停止信号が出された。

■行った調査
・(物理的な)検証試験
・ソフトウェアのコードの検証
・回路の検証

■わかったこと
アンビリカル離脱(物理的なロケットのロック解除・へその緒を切るようなこと)の前に、電気的離脱がある。そこで、誤った(半導体スイッチをオフにする)信号が出た。

■行った見直し
・電気的離脱手順の見直し
・電位変動が起きない(=電気的なノイズが出ない)ような順番に変えた
・試験をして正常動作を確認した

(3月5日16時より)機体を発射位置に移動後、(18時より)最終確認(データ取り)をおこなう。
天気の動きに注目しながら、作業を続けたい


◆質疑応答
注意は「質問は簡潔に」のみ。前回のような「1人1問」制限はなし
(前回、1人1問のルールは守られなかった)

【Q】改めて意気込みを聞かせてください
【A】今度こそ打ち上げたいと思います

【Q】再打上げのメドが立ったのはいつ?
【A】再打上げがみえてきたのは数日前。
これでいけるという気持ちになったのは、昨日おとといの話し

【Q】原因がみつかった時の気持ちは?
【A】イギリスの諺でしょうか「朝焼けの前は暗い」という気持ち

【Q】5日18時からは、何を検証するのか
【A】安全性を十分確保したギリギリで、動作が健全であるかを確認する。

【Q】成功と失敗の基準を語ってほしい
【A】今ですか?(驚いた表情)
17日(の中止)より突っ走ってきたので、今、頭がそういう状態になっていない。
(成功・失敗は)尺度が人それぞれある話しなので、私が言うものではないかと想う。

【Q】感想を聞かせてほしい
【A】これだけ短期間にこれだけのことをしたのは初めて。(出口が見えて)よかったなと想う。関係者の皆さんがよくやってくださった。

【Q】種子島で開催されているロケットコンテストに参加されている400人の学生さんにメッセージを
【A】「君たちすごいな」と想う。
自分は学生の時にそんなことをやろうと想わなかった。ロケットコンテストをとても楽しみにしている。
(情意に訴えようかというこの質問だが、岡田さん、この質問に答える時は、とても愉しそうだった)

【Q】3月10日までに打上げできなかった時の調整はどれくらいかかる?
【A】私はそこに携わっているわけではないが・・
ステークホルダーが多く、全体的な調整になる。

・最後に
今度こそ、打上げを成功させるべく、最後の一瞬までがんばりたい。
エンジニアは最高のパフォーマンスを見せているので、打上げ成功につながると想う。


ほとんどの記者が、質問の最後を「成功をお祈りしています」「がんばってください」と言い添えて締めくくっていた。

1時間の予定で始まった会見は、すべての質問を答え終わった 16:48に終了した。


NPBやJリーグのように「意気込み」以外(チームの内情・戦術は)話しづらいインタビューですら「改めて意気込みを」とやられると、萎える。
ジャーナリストならば、ステレオタイプでなく「お、やるな、この記者」と思わせる質問を考えて臨んでほしい。

ロケットを「これから開発します」という段階で「意気込み」を問うならばわかる。
だが今は、人々が準備を終えた後。
人の体で行うスポーツではないのだから、スタッフの意気込みが強ければ、ロケットが機嫌良く打ち上がるものでもない。
この期に及んで、プロジェクトマネージャーに「意気込み」や「気持ち」を聞くことに違和感を抱いた。

右目にホコリがはいって、しきりに目をさわる岡田さん
「これは涙じゃないです」と説明したのに笑った。

打上げ当日はJAXA、製造各社、ステークホルダー、見守るファンから成る「ロケット団」の一味となり、大空に力強く舞い上がるH3ロケットの姿を、この目に焼き付けたい!

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2023年2月19日 (日)

H3ロケット発射「中止」して「延期」 JAXA岡田PMが見せた真摯な対応

「H3」は、30年ぶりに新規開発された日本の大型ロケット
JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工が開発した「H2A」の後継機。
2023年2月17日、初号機の打ち上げを試みたが、システムが異常を検知したため「中止」そして「延期」された。


■H3ロケットの概要
・用途:衛星の打ち上げ、宇宙への機材搬送
・搬送できる重量:「H2A」のおよそ1.3倍
・開発費:およそ2,000億円
・全長:およそ63m
・打ち上げコストは現行ロケットの半分程度


■時系列の記録
2014年
開発スタート

2020年度
当初の初号機打ち上げ予定を延期

2023年2月17日
先進光学衛星「だいち3号」搭載した「H3ロケット試験機1号機」の打ち上げが種子島宇宙センターで行われたが「中止」「延期」された


■発射当日(2023/2/17)の記録
9:45 JAXAチャンネル(You Tube)で「打上げLIVE中継」始まる
10:37 発射予定時刻
10:42 NHKGがテロップ速報「H3打ち上がらず」
10:45 「メインエンジン着火、SRB3(Solid Rocket Booster3)着火せず。状況確認には時間を要する」として実況放送終了がアナウンスされる
11:00 NHKニュース 全枠を使い解説を交えて伝える
11:10 JAXAの「打上げLIVE中継」終了

14:00 JAXA「H3ロケット試験機1号機に関する記者会見」JAXAチャンネルで配信


■JAXA記者会見 主な内容

岡田H3チームプロジェクトマネージャー(PM)
LE-9エンジンが立ち上がったあと、第一段制御機器で異常が検知されて、SRB3へ点火信号が行かなかった。(涙ながらに)大変申し訳ないし、悔しい。できるだけ早く原因を究明し、できるだけ早く打上げたい

【Q】失敗か中止か?
【A】カウントダウンシーケンスで停まったものについては「中止」と定義している

【Q】年度内(打上げ予備期間として設定している)3月10日までの打上げは可能か?
【A】もちろん、年度内の打上げを目指して頑張りたい。

【Q】どのような異常か?
【A】制御機器がどのような異常を検知したかは、現時点では不明。異常は(LE-9)エンジンではない。断定はできないがSRBの異常でもない。

【Q】機体は移動するか
【A】機体はVAB(大型ロケット組立棟 Vehicle Assembly Building)に一旦戻して検証する

【Q】機体は同じものが、また使えるのか
【A】LE-9エンジンはこういうことを想定して、次に使える設計にしてある

【Q】機体が(準備段階から)種子島に長くいた影響は?
【A】基本的に問題ないと考えている

【Q】飛ぶはずのものが飛ばないのは「失敗」ではないのか?
【A】こういうケースを「失敗」と言ったことはない。我々が非常識なのかもしれないが・・
設計のなかで健全に停まっている、想定している中の話しなので「失敗」とは言っていない

この質問をした共同通信の記者は、質問を終わる際「それは一般に失敗と言います、ありがとうございました」と言い残した。岡田さんは黙っている。

その一言、ジャーナリストとして何を意図したのか。
「世間」「視聴者」の共感が得られると思ったのか。
会社方針を印象づける必要があったのか。
いずれにせよ、それは、表現の場で書けばいいことだ。
生配信の場で、真摯な対応をしている取材相手に浴びせる言葉ではなかった。

失敗だとか、そうじゃないとか、人は時々口にするけど、そういうことに意味があるのか、貴方を見ててそう想う

【Q】今回の不具合は、ロケットを組み立てて、初めてわかることか?
【A】模擬的に負荷をかけることはやってきた。現物で動作させるのは初めての部分はある。

【Q】涙ぐんだので「失敗」という印象を与えたのでは?
【A】このミッションを待ってくださっていた方。楽しみにしているお子さんもいて「ごめんね」という気持ちですね(と涙ぐむ)

【Q】衛星(だいち3号)を一旦(H3から)下ろすか、衛星分離機構(ロケットから衛星を宇宙に送り出す機構)はまた使えるか?
【A】(リトライまでの)期間による。そういうインパクトがないように大至急、原因を究明して、次の打ち上げに備えたい。衛星分離機構を再度使うことはできる

【Q】(テストでは)SRB3に実際に火が入れられないことで、準備が行き届かなかったのでは?
【A】SRB3もLE-9エンジンも(今回の異常検知の)登場人物ではないと想っている

・最後に広報から
原因究明を鋭意進める。具体的情報はありません。適宜お知らせします。


14:00に始まった会見は15:53まで行われた。
原因が究明されていないこの段階において、各社2巡目の質問に「そこが聞きたい」質問は残っていなかった。
それでも、JAXAは報道各社、フリーランスからのすべての質問に答えた。会見が終わったのは、すべての質問が終わった時である。

岡田PMは、記者のど素人質問、(1人1問を超える) ルール無視にも、丁寧に対応。
専門外のことは率直に「わからない」と答え、その真摯さに共感した。

15:00のNHKニュースはトップニュースでこの会見を伝え、岡田さんが涙している映像だけを使った。


静岡県は先進光学衛星「だいち3号」から送られる衛星画像を活用した「盛土」監視事業を2023年から始める予定。

H3ロケットは、将来的には、アメリカの月探査「アルテミス計画」にも活用される予定。
日本が低コストで安定したロケット運用の雄となる未来を待望する。

まずは、3月10日までのリトライ。そして、打ち上げの成功を祈る。

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2022年8月 6日 (土)

気になるが気になる「気になる病」の人たち

♪この木なんの木?気になる木
 名前も知らない木ですから♪
と歌うのは、昭和50年代に放送されていた日立グループのCMソング

ハワイを訪れた時、ツアーガイドさんがモアナルア・ガーデンにある木を指して「この木なんの木?」と問いかけると、日本人観光客がそのCMソングを合唱した。
まだインターネットもなく、CMのロケが何処で行われたという情報はない時代。
これが、その木だと誰も知らなかったのに「この木なんの木」と問われたら、日本人にとってそれはその木だったのである。


時は昭和。僕は会員管理システムのSEだった。

ユーザー部門のサカモト課長から相談を受けた僕ら情報システム部は、関係部署を集めて要求分析の会議に臨んでいた。

サカモト課長が課題を説明する。解決策の自案はない。
情報システム部側が、準備しておいた改訂案についてメリットと工数を説明する。
関係部署は「それしかないね」という空気だ。
どうですか、サカモト課長?
クライアント(お金を出す側)はユーザー部門。彼が判断する立場だ。
サカモト課長は「えっ俺なの」と一瞬戸惑ったように見えたが、少し物憂げな表情でこう言った

「費用対効果が気になるね」

「費用対効果」は自称エリートの決まり文句
会議で他人にアイデアを言わせておいて、後出しじゃんけん的に
「いい案だね。ただ、費用対効果がどうかだね」
と言えば、一気に全員のモラルを下げることができ、なおかつ「二度とこいつとは仕事したくない」と思わせることができる。

「費用対効果」とは
「投資額」と「得られる効果」を比較考量する分析の通称

効果には定量効果と定性効果がある。数値化できる売上げなどが定量効果。数値化できない満足度などが定性効果。
それらを調べたうえで、かかる費用と比べることが費用対効果
それは、気の遠くなる作業だ。

中央省庁や役所の職員が予算を立てる時、必ず行う作業であり、その作業が業務の大半を占める。そこがAIにより自動化されれば彼らの残業は劇的に減るだろう。

その膨大な作業を引き合いに出し、何もしない人が5秒で
「費用対効果が気になるねぇ」
と片づけたので、周りは怒りを通り越して力が抜けてしまった。


時は令和。僕は録画しておいたニュースショーを観ていた。

"最低賃金が31円上がりました"
厚生労働省の審議会が、今年度の最低賃金の引き上げ額を31円とする目安を決定したニュースが紹介される
MCがどうですか?と話題を振り、コメンテーターが応じる
 ↓↓
「物価が上がってますから、本当に上がったのか気になりますね」

気になる?
それで終わりなの?
その先はないの?

意見を求められた時に「気になる」というポジションをとる人がいる。

考えているぞ
問題意識あるぞ
多面的にみているぞ

自分は、なにも考えていない「気にならない」人とは違う!
そうアピールすることで、自分が何者かであると示したいのだろう。

それは、人を萎えさせる
もちろん、萎えない人もいる
いずれにせよ「気になる」という言い逃げは建設的ではない

いつの世にも「何かを言っているようで、何も言っていない」人がいる。
「気になる病」の人もその仲間だ。

「気になる」アピールは要らない
何も言えないならば、ムリに何も言う必要はない
自分のなかにある真摯な言葉に人は共感する


♪この木なんの木気になる木
 見たこともない木ですから
 見たこともない花が咲くでしょう♪
件の日立CMは、こう結んでいる

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2022年1月21日 (金)

サラリーマン生活 最後の10分

ドアを抜けてスロープを足早に歩き、僕は会社を後にした。
時間は未来から過去に流れている
僕は会社を辞めた
これから、目の前の一分に集中しよう

だから、意地でも後ろをふり返るのは止そう
と一瞬想ったが、そんなこだわり「屁の突っ張りにもなりませんぜ」とキン肉マンに笑われそうなので、すぐ取り止めて、後ろを振り向いた。
そこには、数分前と変わらず、曇り空に社屋がそびえていた。

福岡、名古屋と出先を経てたどり着き、今やここで過ごした年月がサラリーマン人生で最長となった。
もう2度とここに来ることはない

この時はそう想っていたが、ロッカーにジャケットを吊したままにしていたのに気づき、2週間後に訪れた^^;)


これまで、定年を迎えた数多くの先輩を見送ってきた。
その中に、これは男性に限られるのだが「今日で卒業なんです」と言って、各部署を巡回する人がいた。

あぁはなりたくない
僕にはそれが、感謝のお礼回りというよりは、最後に別れを惜しんでくれる人を探しているように映った。

未練がましい
僕がそう想っているということは、自分が挨拶して廻れば、相手もそう想うだろう。
もちろん「忙しいから、しっしっ」という人は居ないだろうが「私って貴方とそんなに人間関係ありましたか?」という表情をされるのは忍びない。

「老兵は死なず、消え去るのみ」
と言ったのはダグラス・マッカーサー
(いまGoogle先生に聞いた)
僕はずっと「老兵は去るのみ」つまり、先輩は後輩に道を譲り、潔く消え去るものだという意味だと想っていた。


そして今、最寄り駅に向かう道を歩く。
両手には記念品も花束も寄せ書きも持っていない。

定年ですっぱり会社を辞めると決めた日から、静かに消えたいと想っていた。
それは「コロナ禍」という不測の事態で、願いどおり手に入った。とても違和感なく。

サラリーマン生活最後の10分間で起きたこと、言われたことは、きっと忘れないだろう。
それは墓場まで持っていくかも知れないし、持っていかないかも知れない。

定年退職の当日、どんな気持ちになるのだろう?
この数ヶ月、時折そんなことを考えていた。
恐らく淡々としているのだろう。いや、もしかして、最後に突然寂しさが押し寄せたりして・・


明日から仕事という拘束はない
これまで、それが当たり前だったから、脳はそれがなくなることをネガティブに捉えようとする。
けれど、それこそが脳の横暴だ。

脳が「定型パターン」にはめようと「思考」しているのが見える。
今はただ、曲がり角の先によき未来が待っていると信じている
それが揺るがないから、今なにも決めないでいられる

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2022年1月16日 (日)

37年務めたサラリーマン人生最終日

37年務めたサラリーマン人生最終日
転職はしていないので、新卒、生え抜き、1つの会社で退職を迎える。
これは、前提として会社が存続しているということと、居たたまれないような辛い処遇を受けなかったということがある。
会社と会社を維持してくれた経営者に感謝しなければならない。
もちろん、会社には感謝したくない人もたくさんいたが、それはまた別の話だ。


8:00
いつもより1時間早く起きて、会社には1時間早く到着。
こうすれば、定時より1時間早く16時にあがれる。
もしも「なにか退職の挨拶を」となっても慌ただしくない時間だ。
これまで先輩退職者の挨拶は、17時頃に夕礼形式で行われていた。


フリーアドレスで座席は選り取り見取り
入口から入ってすぐの席をキープする。
今日は2人の社員が「最終日にご挨拶したい」と言ってくれていた。ここならば、探しやすいだろう。


10:00
事業部の佐藤さんがやってくる。

僕は自慢ではないが、あまり人から好かれていない。
群れない、尻尾を振らないということもあるが、それは部署内の話し。
他部門から疎まれるのは、情報セキュリティ規則の番人を演じるために、融通の利かない態度をとるからだろう。
佐藤さんはそんな中、僕を頼りにしてくれる貴重な一人。
セキュリティ絡みの案件がある時は、文書を出す前に必ず相談に来てくれた。

本来、人は人とわかり合いたい。
申請書面のやりとりでは「親切」にすることはできても、どうすれば許可が下りるかという手の内を見せることはできない。
だが、面と向かっての話しならば、多少のリップサービスもできる。

「最後にご挨拶を」というので10分程度かなと想っていたが、話しが弾んで1時間ほどになった。もう僕の仕事は残っていないので、時間はふんだんにある。

その後、社内1人、社外から2人の来客
システムなどの導入選定から外れている僕が、社外から訪問を受けることは滅多にない。
年に1度、岩尾君が訪ねてくるくらいだ。

14:00
最後はその岩尾君
「最終日に、お邪魔したい」とやってきてくれた。
これまでは「会社」という場所で会うことができたが、もう彼と会うことはない。
そして、これがサラリーマン生活最後の仕事になった。


15:00
いよいよ、サラリーマン生活も残り1時間
この後に何が待っているのか、なにも待っていないのか
その瞬間を迎えた時、僕は何を想うだろう

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2022年1月15日 (土)

意外だった定年退職の記念品

会社は数年前にフレックス制度となっている。
朝早く来れば、その分早く帰ることができる。
リアル出社ラスト2日めは、定時よりも1時間前に会社に着いた。
いい席を取るためだ。

従来、景色のいい窓際はエライ人の席と決まっていたので、僕には縁が無い。フリーアドレスとなった今、何処にだって座れるならば、窓際に座ってみよう。
既に出社していた海原部長、山岡課長は互いに離れて座っていて、その両方から均等に離れていて、しかも窓際という席をゲットする。
まさに窓際社員だな・・と一人笑う。こういう時、マスクは口元の表情を読まれないので助かる。

いざ座って見てわかったのは、とても暑いということだ。きっと冬は寒いのだろう。1度座ればこりごり。もう座る機会も無いけど


お昼前、品川さんがやってきた
手には何か小さな箱のようなモノを持っている
あれ?ちょっと予想と違うな・・
品川さんから「今度いつ会えるか」と聞かれた時、恐らく、送別会あるいは送別の挨拶についての打診をしたいのだろうと考えた。

送別会?いやいや、このコロナ禍だから
記念品?いやいや、お気遣い無くで
挨拶?いやいや、在宅勤務も多いし、皆さんの手を止めるのも悪いですから

用意してきた応酬トークは要らなかった。
彼女は小さい箱を僕に手渡すと、こう言った。
「この間、IT部門が社長賞をもらったのね。本来ならば、賞金で呑み会をするところだけど、こういう状況なので、記念品にしました」


午後には町田君がやって来た。その手には紙袋を持っている。
ちょっといいですか?と促され、ロッカーの裏についていく
「これまで、大変お世話になったので」
と手にした紙袋には「香酒盃」が入っていた。

「こうしゅはい」は有田焼メーカーKIHARAが手がける、ワイングラスの原理を応用した盃。盃の内側の丸みで香りが対流するので、酒の香りを楽しむことができる。
佐世保生まれの僕に有田はなじみ深い町。とてもいい品を選んでくれたと想う。それ以前に、彼がこんな気が利くとは想っていなかった。


職場では退職者が出る度に、幹事役がこっそりと一人千円ずつを集め、記念品を渡すという習慣がある。それは、ある程度値の張る品となるが、一人一人の顔は見えない。

町田君の顔が見える香酒盃は、僕にとって定年退職、最高の記念品となるだろう。この時はそう想っていた。

そして、いよいよ定年退職日を迎える

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